NO MORE 映画マウンティング

主に新作映画について書きます。

R指定の再帰的ファンタジー 『シェイプ・オブ・ウォーター』感想

美女と野獣、かえるの王さま、シザーハンズナウシカ王蟲、王とコムギなど、異形のものと人間のロマンス、ないし交流を描いた作品はたくさんある。いわゆる異類婚姻譚というやつだ。

異類婚姻譚でも古典中の古典ともいえる物語はアンデルセン童話の『人魚姫』ではないだろうか。人間の王子に恋をした人魚が、声と引き換えに尾ひれを足に変えてもらい、王子と結ばれるべく人間界に降りたつ悲しいロマンス。
 
本作の主人公、イライザ(サリー・ホーキンス)も声を発することができない。彼女の人生を変えたのは、人魚とは程遠いある水棲生物との出会いだ。1962年、冷戦下のアメリカ。童話とは似つかわしくないこのきな臭い時代を舞台に『人魚姫』の物語が思いもよらぬ形でよみがえる。
 
あらすじ書くのめんどうなので適当に公式サイトでチェックしてください。ただ予備知識なしで見たほうが面白い映画なので自己責任でお願いします。ネタバレありです。モロにラストに触れます。
 

ソフィア・コッポラは何がしたかったのか 『ビガイルド/欲望のめざめ』感想

ソフィア・コッポラの新作。今までの彼女の監督作はすべて自身が書いたオリジナル脚本になるので、原作ありの企画は本作が初。それもすでに一度ハリウッドで実写化されている小説を題材にしたリメイク作品になるのでちょっとびっくりした。オリジナルはドン・シーゲル監督、クリント・イーストウッド主演の『白い肌の異常な夜』。さて『ダーティハリー』でよく知られるハリウッドで一番男臭いコンビの映画をなぜ今さらガーリーでポップな作風で知られるソフィア・コッポラがリメイクするのだろうか。
 

beguiled.jp

 

ここでは『白い肌の異常な夜』との違いなども含めて、リメイク版の感想を書いていく。以下ではタイピングがだるいので『白い肌の異常な夜』をシーゲル版、『ビガイルド/欲望のめざめ』をコッポラ版と呼ぶ。ネタバレがんがんするので未見の方は要注意で。

 

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ドン・シーゲル&クリント・イーストウッド 『白い肌の異常な夜』感想

男臭いいぶし銀コンビ、ドン・シーゲルクリント・イーストウッドの傑作サスペンス・スリラー『白い肌の異常な夜』。
お洒落でガーリーなソフィア・コッポラが本作をリメイクするっていうんで予習がてらにレンタルしてきましたよ。久々にリアル店舗で。ちょっと面倒だけど、観たい方は某大手レンタル店へ。近所の小規模店でも在庫していたのでだいたいの店に置いてあると思う。
 
1971年に公開された本作は、監督のドン・シーゲルクリント・イーストウッドにとってキャリアの転機となった作品。
そもそもこの企画は『真昼の決闘』撮影時にイーストウッドが原作を気に入り、シーゲルに映画化を持ちかけたところからスタートしたらしい。
当時のイーストウッドマカロニウエスタンの看板役者でばりばりのアクションスター。一方のドン・シーゲルもB級のジャンル映画、主に西部劇やアクション系のイメージが強い監督。
 

「This is me」めっちゃいい 『グレイテスト・ショーマン』感想

ひと昔前まで「終わったジャンル」感を醸し出していたミュージカル映画がここ最近猛烈な盛り上がりを見せている。
ミュージカル映画リバイバルとすら呼べそうな盛り上がりは『シカゴ』そして『ドリームガールズ』あたりからだろうか。
 
ここ最近では『レ・ミゼラブル』、『ラ・ラ・ランド』のヒットが記憶に新しい。
ミュージカル映画リバイバルに関わったキャスト、スタッフが結集して制作されたのが本作『グレイテスト・ショーマン』だ。個人的にはミュージカルにはそこまで思い入れはないんだけど、頭でっかちの映画オタクからなぜか下に見られることが多いので肩入れしたくなる。まあ本作はそんなこと抜きにしても傑作だけど。
 
 
核心には触れてないけどネタバレ気になる方は読まないでください。
 
 
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アクションの癖がすごい 『悪女/AKUJO』感想

ブルース・リージャッキー・チェンドニー・イェンのように超人的な身体能力とスキルで魅せる軽量級アクションや、アーノルド・シュワルツェネッガーシルベスター・スタローンのようなゴリゴリのマッチョがパワフルに魅せる重量級アクションは、役者の身体性を最大限に引き出すことで観客を魅了するバスター・キートン型のアクション映画。
 スターウォーズマトリックス、近年のマーベル映画はCGなどの特殊効果を駆使してアトラクション的な映像体験を産み出し、高次元のアクションへと昇華させるタイプのアクション映画。ギミックでアクションを映えさせるという意味ではチャップリン型と呼べる。
 何が言いたいかというと、アクションはシンプルなゆえに歴史が長く、その引き出しは既にほとんど開けられてしまったジャンルである。
 
 
…などといかにもシネフィルっぽい分類ぐせと根拠のない断言でなんとなくアクション映画って下に見られがち。頭使わなくても基本見れますしね。かくいう私もそんなふうに考えていた時期がありました。
 
だがしかし…。クリエーターたちの執念はすごいもので、『レイド』『ハードコア』『ベイビードライバー』『アトミックブロンド』など、21世紀に入り映画の歴史が百年を超えた現在でも、続々と新鮮なアクション映画が作られ続けている。
 
今年も早速とんでもない映画が公開になった。それが本作『悪女/AKUJO』だ。宣伝文句に偽りはなく、間違いなく、今年NO.1の驚くべきアクション映画だった。
 
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「演技力」の曖昧さについて

 
久々の更新にもかかわらず大きなテーマを掲げてしまい後悔している。
ともあれ、映画やドラマにおける演技は作品の出来を左右するとっても大事なパフォーマンスである。またそうであるからこそ、便利な批判対象にもなる。
言語化できるほど作品を吟味したわけでもなく、「なんとなく気に入らない」といった感覚で作品を批判したいときに、「〇〇の演技が下手」といえば、内容が薄くてもクリティカルに見える。とっても便利な評価項目なわけだ。
 
というのも演技の上手い下手は、共通認識があるようでいざ文字にしてみるとふわっとしか説明できない曖昧なものだからだ。
考えてみると不思議なもので、演技経験のある日本人は少数派だ。あったとしてもお遊戯会や文化祭の出し物でちょっとした役を演じたことがある程度でしょう。
ましてや専門的な教育や指導を受けたことのある人などほぼ皆無だ。にもかかわらず、映画やドラマが公開されると役者の演技力が当たり前のように品評され、しばしば痛烈な批判が加えられる。
 
というわけで、なんとなーく共有されている演技力ってつまるところどういうことなのか、考えてみようと思う。*1
 

*1:本稿の演技は映画やテレビなどの映像作品に限定する

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聖人も悪人もいない物語――映画『聲の形』感想

前置き

さて毎年恒例の感動ポルノの季節ですね。愛は地球を救う。
というわけで「感動ポルノ」と批判された『声の形』をレビューすることにする。
あらすじはこちらを確認してね。
 
映画を鑑賞した後マンガ全巻読破。少し内容がごっちゃになってるかもしれないけどそこはご愛嬌ということで。
本論に入る前に「感動ポルノ」についておさらいしておこう。
 
私たちが障害者の姿に感動しているのは、心のどこかで彼らを見下しているからかもしれません……。2014年12月に亡くなったコメディアン兼ジャーナリストのStella Young(ステラ・ヤング)氏は、従来の「気の毒な障害者」という枠を破った率直な発言で人気を集めました。健常者の感動を呼ぶために障害者を取り上げる風潮を批判し、障害者問題に対する社会の理解を求めました。(TED2014より)

   障害者は感動ポルノとして健常者に消費される - ログミー

 

「感動ポルノ」の名付け親ステラ・ヤング氏のTEDスピーチより引用。詳細はリンク先を参照。

要するに障害者を健常者の都合のいいように消費する一連の風潮のこと。

 

*1:わざわざ公式からひっぱってきたのは、「いじめ」や「聴覚障害」に関する情報が一切出てこないことを確認するためでもある

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