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アクションの癖がすごい 『悪女/AKUJO』感想

ブルース・リージャッキー・チェンドニー・イェンのように超人的な身体能力とスキルで魅せる軽量級アクションや、アーノルド・シュワルツェネッガーシルベスター・スタローンのようなゴリゴリのマッチョがパワフルに魅せる重量級アクションは、役者の身体性を最大限に引き出すことで観客を魅了するバスター・キートン型のアクション映画。
 スターウォーズマトリックス、近年のマーベル映画はCGなどの特殊効果を駆使してアトラクション的な映像体験を産み出し、高次元のアクションへと昇華させるタイプのアクション映画。ギミックでアクションを映えさせるという意味ではチャップリン型と呼べる。
 何が言いたいかというと、アクションはシンプルなゆえに歴史が長く、その引き出しは既にほとんど開けられてしまったジャンルである。
 
 
…などといかにもシネフィルっぽい分類ぐせと根拠のない断言でなんとなくアクション映画って下に見られがち。頭使わなくても基本見れますしね。かくいう私もそんなふうに考えていた時期がありました。
 
だがしかし…。クリエーターたちの執念はすごいもので、『レイド』『ハードコア』『ベイビードライバー』『アトミックブロンド』など、21世紀に入り映画の歴史が百年を超えた現在でも、続々と新鮮なアクション映画が作られ続けている。
 
今年も早速とんでもない映画が公開になった。それが本作『悪女/AKUJO』だ。宣伝文句に偽りはなく、間違いなく、今年NO.1の驚くべきアクション映画だった。
 

 

 アクションがすごい

公式サイトでもがんがん宣伝されてるけど、冒頭のシーンでやられる。『ハードコア』をご覧になった方にはお馴染みのFPS*1長回し。強面のお兄さんたちが逃げまどい、肉に刃が突き刺さる音とともに次々と崩れていく。
 

このシーンがなぜFPSなのか。スタントマン出身のアクション映画オタクっぽい監督が『ハードコア』を意識した部分もありそうだけど、最大のポイントは、一人称視点の持ち主が女性ということのインパクトを高めるためだ。

 

残念ながら、タイトルで盛大にネタバレしてるので、さほど大きな衝撃はなかったけれど、にやにやしたガチムチ体育会系野郎どもをか弱そうな女性がばったばったとなぎ倒していく爽快感は十二分に味わえた。

 

役者のあごに特殊カメラを設置して撮影したそうで、とにかく肉弾戦の迫力が半端ない。完全なワンカットではなく疑似ワンカット。ワンカットに見えるようにCGで細かく繋いでいて、実際は5日間かけて細切れに撮影したらしい。冷静になって考えてみれば、あれをワンカットで撮るには撮影コストがかかりすぎるし、そう見えるように簡単にCGで処理できるならそれにこしたことはない。でも冒頭でいきなりあれをスクリーンで見せつけられれば「なんじゃこりゃあ!?ワンカットやんけ!」と仰天しつつ思わず前のめりになる。

いやもう最近の映画はカメラに血しぶきかかるのなんて当たり前になってきた感あるけど、それでもあの近距離の主観ショットで血しぶき浴びるとぎょっとする。
 

とにかくアクションがすごい

さっきも言ったけどちっちゃいやつがでっかいやつを倒すってやっぱり爽快なんですよね。ほら、力道山が外人レスラー倒すとかYAWARAちゃんがでっかい大人をぶん投げるとかってそれだけで画になるし、ストーリーができるじゃない?ぼくら日本人や韓国人もそうだけどアジア人ってやっぱそのあたりのストーリーが好きな人種なんだろう。もちろん性別差がさらにそのてこになってる。 
 
その主演を演じた女優さんがキム・オクビンパク・チャヌクの『渇き』で映画女優として売り出した方。テコンドーとハプキドー*2の有段者で本作のアクションはほとんど彼女がこなしている。
 
このご時世にノースタントを売りにするってコンプライアンス上大丈夫なの?と見ているこっちが心配なってしまうけど、そんなのお構いなし。
 
ニキータ』のオマージュらしいこのシーンとかわかりやすいけどやっぱり画になる。
ちなみにこれは便所の換気扇から狙撃しようとしているところ。この後挙式。
 

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悪女 AKUJO : フォトギャラリー 画像 - 映画.com

  

やっぱりアクションがすごい

廃墟、雨、復讐劇などなど韓国ノワールのお約束をきっちり踏襲してくる本作。得物へのこだわりも韓国ノワールの伝統にのっとり、斧、ナイフ、ハンマーまで様々。なかでも日本刀への偏愛は監督のオタクっぽさが感じられて微笑ましい。日本刀を用いたバイクチェイスシーンは、『AKIRA』のファストシーン顔負けの超絶アクションだ。
 
そしてファーストカットと対になるラストカット。これが一番驚いた。もはやゲームのような疑似ワンカットによるストーリー上でも、制作スタッフにとっても執念の追跡劇に仕上がっている。もうね、主人公の不死身っぷりが完全に悪役のそれなんですよ。ビルから落ちて車にはねられても諦めない。ひかれた車に飛び乗り、フロントガラスをぶち破り、ペットボトルでアクセルを固定して、ボンネットに乗り出して運転する。「恨(ハン)」の嵐がまさに唸りをあげるエンジン音とともにスクリーンを埋めつくす。ここでタイトルの「悪女」の意味がようやく腑に落ちるようにできている。
 
アクション映画好き、韓国ノワール好きは必見です。とはいえ緻密なストーリーを期待してはいけません。なんかちょっと凝った感じの脚本にして、アクロバティックな構成にしてごまかしてますけどストーリーは弱いです。身内の殺し方も雑だし、黒幕ばればれだし、ていうかそろそろ女性が闘う理由が男のためっていうのも食傷気味じゃない?とか、口笛の使い方はさすがに安っぽくない?*3とかいろいろと不満はあるけど、まあストーリーは飾りです。なんとなく韓国ノワールっぽくなればOKってことで。
 
前作の『殺人の告白』は脚本で評価あげたみたいなんだけど、好きなアクション存分にやらせてもらいましたって作品なんでしょうね。子飼いの優秀な脚本家がいるといいんだろうけど。でも「おれはこのシーン撮るためにこの映画作ったんだ!」ていうのが前面に出ちゃってる映画嫌いになれないですね。楽しませてもらいました。
 
興行惨敗っぽいんで応援したい映画。ぜひ劇場へ。

*1:ファーストパーソンシューティングの略。ゲームでよくある一人称視点のやつ

*2:韓国版合気道のような格闘技。おそらく日本の合気道と一緒くたにしてしまうのは双方から怒られてしまうけど、まあ勘弁しほしい

*3:TWDファンのみなさんごめんなさい