NO MORE 映画マウンティング

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サノスさんとトロッコ問題 『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』感想

アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』を観てきた。異次元1on1とかスーパーヒーローの無双感とかは薄めだけど、まあとにかく豪華メンツが一堂に会して前近代的な白兵戦でぶつかり合うところはテンションあがったな。やっぱり広野で対峙する両軍が喚声あげてぶつかり合うのはスクリーン映え半端ない。それがヒーロー集結の大戦なわけだからクライマックスは文句なし。
 
まあ、この辺のアクションのすごさとかパーティ分け(ヒーローの組み合わせ)の妙についてはたくさんレビューが出ていると思う。
ぼくとしてはもちろん上記の要素を認めつつ、戦闘シーンに尺を取らざるを得ない限られたリソースでしっかりテーマを反復して後編(アベンジャーズ4)への布石をばちんと決めたことを評価したい。ドラゴンボール的な最強vs.最強なバトルアクションのスペクタクルに終始せず、究極の倫理的選択によって両者の対立を際立たせたテーマ設定とストーリー展開にマーベルの本気をみた。まだアベンジャーズ4を控えた折り返し地点のストーリーだけど、その辺について書いてみたいと思う。※ネタバレあり

 

 

太った男のトロッコ問題  

さて、IW(インフィニティ・ウォー)のテーマって何だろうか。ぼくは一言でいえば「命の重さ」だと思う。
このテーマに対してアベンジャーズ陣営とサノス陣営が対立する。サノスの正義は、宇宙の全体最適のために手段を選ばない=全人口を半分に減らすべき、というもの。そのためにサノスはインフィニティ・ストーンを次々に奪取していく。石をすべて集めることに成功すると、指を鳴らすだけで宇宙の半分の命を奪うことができる。それに対してアベンジャーズは仲間と宇宙を守るためサノスを迎え撃つ。宇宙を守るためだけならば、石と一体化しているビジョンを壊せばサノスの野望を阻止することができるが、「命に大小はない」としてビジョンも石も守る道を選ぶ。つまり、一人を犠牲の上に成り立つ平和を拒否する。
 
両者の違いは有名な思考実験「トロッコ問題(太った男バージョン)」によって簡単に整理することができる。
 
暴走するトロッコの先に5人の作業員がいる。このままでは5人とも轢死確実だ。線路の上の橋にたまたま居合わせたA氏。隣には何も知らない太った男がいる。この太った男を線路に落とせばトロッコは確実に止まるが、太った男が死ぬもの確実だ。さてA氏は5人の作業員を見殺しにすべきか、それとも太った男を橋から突き落とすべきか。
 
サノスさんなら迷わず太った男を突き落とす方を選択する。自然の摂理に任せてインフラ整備に励む作業員たちを見殺しにするよりは自らの手を血に染めるだろう。しかし、アベンジャーズは「命に大小はない」という立場なので不作為による作業員の死を選ぶだろう(彼らなら簡単にトロッコを止められるだろうけど)。
 
これ多くの人がアベンジャーズたちと同じ選択をするらしい。ただあくまでこれは思考実験であり、現実に訪れる究極の二択はそう単純ではない。
 
この困難さを描いたのが本作のストーリー。よりわかりやすく、かつドラマチックに描くため、犠牲者を最愛の人に設定して何度も葛藤させる。サノスにとってのガノーラ、クイルにとってのガノーラ、そしてワンダにとってのビジョン。
 
サノスはもちろんガノーラをわが手にかける。そして本作の脚本が憎いのは、「命に大小はない」を肝に銘じていたはずのアベンジャーズ側にも同じ選択をさせるところだ。
結果的には幻影だったとはいえ、クイルはガノーラに銃口を向けて引き金を引くし、ワンダに至っては本当にビジョンの石を砕き、亡き者にしてしまう。言うまでもなく、暴走するトロッコはサノスであり、太った男はガノーラ/ビジョンだ。ガノーラとビジョンを犠牲にすれば、サノスの石集めは失敗していたのだから。*1
つまり、アベンジャーズはサノスとの戦争に負けたのみならず、思想の部分でもサノスに取り込まれてしまったといえるだろう。わかりやすくいえば、試合にも勝負にも負けてしまったわけだ。
しかし、IWで唯一逆の選択をした男がいる。それがドクターストレンジである。
 

ドクター・ストレンジは如何にして心配するのを止めてスタークを愛するようになったか

 ここで気になるのが、なぜドクター・ストレンジはタイムストーンをサノスに渡したのかである。
 
「石が危険に晒されたら迷わずお前ら見捨てるからな」とスタークに豪語していたドクターストレンジ。でもいざ目の前で彼がサノスに殺されるかけるとタイムストーンをサノスに渡して降伏してしまう。もちろんただのツンデレ展開として楽しむこともできるが、続編に繋がる非常に重要な行動だった。作中でこれでもかと反復されたシチュエーション。そこで他とは異なる選択肢を取ったのだから。
 
まあ、テーマの反復を考慮しなくても、石を渡す際のドクターストレンジの表情と間には一見して意味ありげだったし、タイムストーンを渡した後の「これであとがなくなったな」というセリフは、事前の言動と食い違う行動を説明するには短くかつ淡泊に過ぎる。たったワンセンテンスってことはないでしょう。
 
これが伏線であるかどうかは続編を待つほかないが、少なくとも現時点でのドクターストレンジの行動は、サノスと真逆であることは確かだ。スタークと宇宙を天秤にかけなかったのだから。まあ、ドクターストレンジは起こりうる未来の可能性を予見してるので、スタークが起死回生のキーマンになる、ということなのだろう。AOUから続くスタークの失態を考えればMCU的にもそろそろ名誉挽回の機会が与えられてしかるべきである。
 
この布石がどう展開されるのか(あるいはされないのか)、とにもかくにも続編がとっても楽しみ。
 
 
 
 
 

*1:結果論だが、クイルがもしあそこでガノーラを殺せていればサノスはソウルストーンの入手に失敗していただろう