NO MORE 映画マウンティング

主に新作映画について書きます。

スモール・イズ・ビューティフル 『ダウンサイズ』感想

人間が小さくなると社会はどうなるのだろう。ファンタジーではなく、この発想を現実的にアプローチした映画。まるで政治哲学の思考実験のようなテーマだが、内容はとってもコミカル。

 

主人公ポール(マット・デイモン)は、理学療法士オマハの実家で妻オードリー(クリステン・ウィグ)と二人慎ましく暮らしているが、それでも家計は厳しい。深夜にこっそりベッドを脱けだし、そろばんをはじく毎日。憧れのマイホーム購入も住宅ローンの審査が通らない。夢の生活を実現させる方法はただひとつ。世紀の大発明、ダウンサイズによって体の大きさを1/14にすること。体が小さくなれば、食費などの生活コスト必然的に削減できる。つまり、資産が82倍になる計算だ。

ダウンサイズした住人の町、レジャーランドの門を叩くポールとオードリー。はたして二人を待ち受ける運命とは。

未見の方に配慮しませんのでネタバレにはご注意を。

 

downsize.jp

 

プレゼン上手なアメリカ人

ダウンサイズを発明する瞬間からはじまる。ダウンサイズを世界にはじめて公開する国際学会の講演までがアバンタイトル。このプレゼンのシーンがおもしろい。はじめに研究所の所長がある箱をもって壇上に上がる。

 

「環境問題、人口増加、世界は様々な問題を抱えている。しかし、私たちは問題解決のための究極の方法を見つけた」と語りだし、一人の研究者を紹介する。その研究者は箱の中にいた。彼こそダウンサイズの発明者にしてその被験者、アスビョルンセン博士(ラルフ・ラスゴード)だ。小型化した彼を見て騒然とする会場。

 

アスビョルンセン博士によるとダウンサイズの安全性は実証済ですでに有志の被験者たちと共同生活も行っているという。最後はこの被験者たちが壇上に登場し、世紀の発明のニュースは世界を駆け巡ることになる。タイトルバック。

 

研究者がジョブズ顔負けのプレゼンするの?っていうツッコミはひとまず措くとして、この5分程度の導入がすごく滑らか。『オクジャ』とかもそうだったと思うけど、導入部分にプレゼンを持ってくるストーリーテリングは効果的だなと改めて思う。

 

また前半部分の大半はポールとオードリーの冴えない生活を見せつつ、「いかにダウンサイズが素晴らしいか」というプレゼンとセールストークになっている。

 

「人間が小型化する」ということのメリットを、時にはテレビ通販のように、時にはフィナンシャルプランナーのように、数字を交えて明快に説明するこのギャップが笑いを誘う。

 

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(C)2018 Paramount Pictures. All Rights Reserved

 

プレゼンやセールストークからもわかるように、ファンタスティックなアイデア=「人類の小型化」に現実的な肉付けを施す。これが本作の見どころ。

 

小粒だけどちょっとにやっとするアイデアジョークも盛りだくさん。

 いちばん感心したのは「keepsake」と書かれた箱。

 

レジャーランドにいく人たちはみんなこの箱を持っている。要するにこれ、小型化前の思い出の品を入れる箱。指輪やら写真やらどうしてもレジャーランドに持っていきたいものを入れる。実はこの箱はトラックの荷台になるようにできている。小型化した人間にとっては指輪ですら大荷物だからね。

 

他にも小型化する前に体毛をすべて剃り、腸内洗浄したりと小型化できないものを人体から取り除いていくんだけど、この辺の無駄なリアリティの追求も笑える。

しかも小型化自体はレンジでチンするみたいにあっさりと数秒で完了してしまうというオチ。 

 

なによりテンポがいい。一年後、五年後、十年後とか時間がどんどん進むし、ややこしい解説も少ない単純明快なストーリー。ギャグなかなか風刺的でいい。

 

肝心のダウンサイズ後が…

 とまあ前半までは良かったと思うんだけど、後半がちょっと…。山王戦後の湘北くらい嘘のように失速してしまう。

というのも妻オードリーが、小型化せず直前で逃げ出してしまったことが発覚する。ここからはレジャーランドにひとり取り残されたポールの自分探しの話になってしまう。

 

これ前半でまったく予告されていないから「え?これゴールどこなの?」と不安になってしまった。せめて何かしらの描写をレジャーランド入居前の場面で入れておかないと。

 

でもやっぱり「一度小さくなると戻れない」ってダウンサイズのデメリット、前半に散りばめていた「経済も縮小する」とか「納税の義務が実質的に縮小しているのに参政権などの権利はそのまま」*1どの社会制度上の不都合、これらを投げうってまで語るストーリーがそれかよ感は否めない。いいことづくめのダウンサイズ、でも実は裏があり…って物語の王道として強すぎませんか。

 

それに大きい社会との接点が減る後半は映像的にも退屈。小ささはあくまで対比で際立つわけで、みんなが同じ縮尺で動くレジャーランドは普通の映像と変わらない。

んースタミナ切れ感は否めない。

 

まとめ 

いや、ドュシャン(クリストフ・ヴァルツ)とかノク・ラン・トラン(ホン・チャウ)とか強力なキャラクターは出てくるし、ユートピアに見えたレジャーランドにも実は貧富の差があってとか、ポールの自分探しに終始するわけではないし、見どころもなくはないんだけど、個人的にはパワーダウン感が否めなかったかな。

全体としてはネタに料理が負けている印象。ちょっと前に公開された『シンクロナイズドモンスター』と同じく脚本の生煮え具合が残念。

 でも前半は文句なしに面白いし、後半もノク・ラン・トランのキャラクターは強烈でそれでいて微笑ましいし、ドュシャンのコミカルなキャラクターも笑えるシーンはたくさんある。ポールとノク・ラン・トランが結ばれた翌朝、嫌らしくにやにや二人を迎える顔とか。

ま、興味があればぜひご覧あれ。

 

 

 

 

 

 

 

*1:正確には義務が縮小するわけではないが、スモールワールドがある種のタックスヘイブンとして利用されているという指摘としては理解可能